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飛騨高山のパプリカ農園に、全国から料理人が集まる理由

東農園

東農園

高山市街地から西へ車を走らせること15分、高山盆地を見下ろし、目の前には乗鞍岳の絶景が広がる見晴らしの良い高台にずらりと並んだハウス。ここに飲食業界を牽引する星付きレストランシェフや料理人たちがわざわざ足を運ぶ農園があります。
ピンと元気よく茂った葉陰から覗くのは、ピカピカとつややかに大きく育った赤や黄色のパプリカ。舌の肥えた料理のプロたちが「肉厚でえぐみのない甘さ」と口を揃えて絶賛するパプリカです。
東農園の東信吾さんは高原野菜の飛騨ホウレンソウ農家の三代目に生まれ、唯一無二のパプリカの生産に挑戦しています。

栽培を始めて7年、今では地元スーパーにも並び、親しまれている東さんのパプリカですが全国的には栽培農家が少なく、オランダや韓国からの輸入品が主となり国産は10%ほどとも言います。
「パプリカはとても手間とコストがかかる野菜なんです。オランダや韓国では水耕栽培で育てていますが、うちでは土づくりから始める土耕栽培です。」
乾燥したものはスパイスにもなるほど薫り高いパプリカ。ハウスに入るとふわっと青く爽やかな香りが漂います。

この日は佐藤総料理長もハウスに入り、収穫が始まったばかりのパプリカを見せていただきました。その場で樹で真っ赤に完熟した採りたてをかじると、皮が柔らかくみずみずしい果肉には、生のパプリカ独特のほんのりとした苦みがありません。
「まだ収穫が始まったばかりでみずみずしいですが、これが9月になるとどんどん甘くなるんです。11月にはりんごに近い味になります」と東さん。

「父は比較的大きな規模でホウレンソウを育てる農家ですが、子供の頃は遊びにも連れて行ってもくれず、毎日泥だらけで疲れて帰ってくる姿を見て、何が楽しいんだろう?と農業が嫌いだと思ったこともありました。双子の弟は5分遅れで生まれて自由に職を選べるのに自分は跡取り、理不尽だなと。農業大学を卒業した後、種苗メーカーに研修に行ったんです。そこは良質な遺伝子を研究し、高品質な種苗を作り出すスペシャリスト集団です。そこで冬に霜の降りた畑の大根を食べてみろ、と言われてかじったとき、初めて辛いはずの大根が甘い、美味しい、と驚きました。霜を当てた大根は自らが凍らないために糖度を増すといいます。さらにどうやったら甘いトマトができるのか?何で虫がつくのか?など基本的な植物のロジックがきちんとあると知ったときに、水と肥料さえあれば育つと思っていた野菜が、何とも奥が深くて、それを理解していけば自分のブランドを作れる、と思ったんです。」

飛騨高山に帰郷後、さっそく家庭菜園でいろんな野菜を栽培し、直売所に出してみると手にしたお客さんが「国産のパプリカを初めて食べた。美味しい。」と言ってくれたんです。それを聞いて、パプリカ栽培をやってみようと奥飛騨上宝地区でパプリカを栽培していた方の元へ毎週通い、勉強しました。

そんな東さんの元に4年前、ある星付きレストランのシェフからパプリカを送って欲しい、と電話があります。
「コースに出すムースに使う美味しいパプリカを探しています」ということでした。聞いてみれば『西麻布の一等地に来年カウンター8席のフレンチのお店を出すのですが、僕が作りたいのは素材そのものの旨みを高め、力を引き出すピュアな料理なんです。』と言われました。さっそく送りましたが、その後、リアクションが無いので、思い切って東京に会いに行ったんです。
するとシェフは『全国から8件取り寄せたが、あなたのパプリカにはパンチはあるが、若干の雑味もある。自分が求めているのは、ネガティブな要素の一切ないパプリカなんです。』と言われました。その話を聞いて、そこまで繊細な味を追求していなかったものの、雑味と言われた原因がなんなのか、ハッと思いついたんです。」
東さんはその原因を説明し、来年、もう一度自分のパプリカを試して欲しい、と言いました。するとシェフは「お時間ありますか?」と東さんを自分の師匠のお店へと案内してくれました。そこは自分では行くことができない様な高級日本料理店、シェフの師匠のお店でした。
そして師匠に「自分は今年は取引できないけれど、彼はとても頑張っている生産者です、来年よろしければ使ってやってください。」そうして仲間のお店に二軒三軒と回って丁寧に紹介してくれました。

「なぜ初めて会ったばかりなのに、ここまでこの人はしてくれるのだろう、なぜそんなにミシュランの星にこだわっているのだろう。話すうちに疑問に思い聞いてみると、シェフは『自分はいろんな方の支えがあって店を出させてもらっています。自分を支えてくれる漁師さんや農家さん、業者さんが良かったと思ってもらえるように星を必ず取りたいんです』と言われました。自分ではなくお世話になっている方への華として星を取りたいという姿に本当に感動したんですね。」そこのシェフに少しでも役立てれば嬉しいと西麻布の深夜の交差点で熱い気持ちを胸にした東さん。その出会いが自分を動かし、引っ張りあげてくれるきっかけとなったと、とても感謝しています。

一人では困難なことも、力をあわせれば高めあっていける。東さんは早速、もう一度土づくりから見直し、土のこと、堆肥まで知識をブラッシュアップしていきました。
飛騨高山で堆肥を作っている藤原孝史さんの存在も大きく力となってくれたひとつ。

「飛騨高山の山深い里でこだわりの堆肥をつくっているのが藤原さんです。一見、ひげもじゃで怪しいおじさんですが、地元より東京やこだわりの農家の中では有名人なんですよ。いつも百姓が豊かになるためにはどうしたらいいか?を考えていて、豊かな土を作るための堆肥、微生物、循環をとことん突き詰めて考える、いい意味でマニアックで変態なおじさんでした。今ではその考え、姿勢は本当に尊敬しますし、憧れの存在です。」と東さん。「藤原さんが作る堆肥は"revive soil"という商品名ですが、毎年入れることでバランスが傾いていた土が整ってきた気がします。何より豊かな微生物がいるその堆肥のおかげでパプリカがハウスの通路までいっぱいに沢山の根を張って、肉厚で甘くておいしいと言ってくださる方が全国に増えました。そして微生物の餌となるのは昭和の頃に葺かれた合掌造りの屋根の茅や、飛騨の家具作りででたおが粉、米農家のもみ殻、魚かすなど顔の見える尊敬する先輩方や仲間が協力してくれています。この地域ならではの持続可能な資源と、飛騨の厳しい寒暖差、豊かな自然、支えてくれる仲間あっての野菜づくり。これこそが飛騨高山らしい野菜づくりだと、日々感謝と誇りを深めていくことが出来ています」、と胸を張り笑顔で言います。

「パプリカは11月の収穫の最後の1週間のみ、霜をあてるとリンゴのように甘くなるんです。それは死にかけたパプリカが鳥に食べて種を運んでもらえるよう、甘くなり、種も沢山持つからなんです。糖度があがればもちろん、凍りにくくなる。そのパプリカを今年は箱に入れ、1個1000円で販売したいと考えています。農業は天候にも左右され、このところ燃料費肥料代も急激に上がり、儲かる仕事ではありません。
けど夢を見たいし夢を見させたい。その為に知識と手間をかけて誰もが納得するようなレベルの野菜を作りたい。でも決してアッパー層だけに食べて欲しい高級品だけを作りたいわけではなく、例えばレクサスの技術力を活かしプリウスが良くなった、と言われるように、全体のレベル向上のための目標だと思っています。だから野菜嫌いな子供たちが好きになるような野菜を作るというのが一番の目標です。」
東農園のこの最上のパプリカは、きっかけとなった西麻布のフレンチシェフのスペシャリテとしても登場するそう。グルメ業界からも注目を集める、今最も予約のとれない人気レストランのひとつです。
そしてフルーツのように甘いくさび型のパレルモのほか、飛騨ネギ、トウモロコシやモロッコインゲン、アスパラ、ビーツや西洋野菜など手掛ける野菜も増えてきました。

「スターシェフにはみんなが憧れ、人が集まりますが、それを支えているのは生産者や職人たちです。そうした縁の下で支える方にもスポットを当ててほしい。そういう人たちがちゃんとお金を稼げて、正しい対価を皆んなに支払える、循環が大切だと思います。若い世代が見ても魅力的な仕事にしないといけない。」
そして、知識や技術で支えてくれる父親、先輩方やチームがなくては自分一人では何もできないと言います。自分はものの作り手と同時に伝え手でもあるから、と美味しさとその背景までをロジカルにとらえ、農園を訪れる人にも丁寧に向き合います。
地元の生産者と二人三脚になり、飛騨高山ならではの美味しさを届けたい、という佐藤総料理長もその思いにうなずきます。

飛騨高山の豊かな自然や丁寧にものづくりに向き合う職人たち、昔から続く地元の産業や文化にまでつながるみんなの思いを感じてもらいたい。そういった産地の空気をも含んだおいしさが、このずっしり重いパプリカには詰まっています。

東農園のパプリカをはじめとした野菜は、グリーンホテル内レストラン、和食、洋食、中華の様々なメニューでご堪能いただけます。
採れたて新鮮な農園直送の味をぜひご賞味ください。
(季節、レストランの料理内容によって提供していない場合がございます)

YouTubeでは、
東農園のパプリカの動画を公開中!

ピカピカとつややかに大きく育った赤や黄色のパプリカ。舌の肥えた料理のプロたちが「肉厚でえぐみのない甘さ」と口を揃えて絶賛する東農園のパプリカを取材しました。

2022/8/31 UP 取材協力:東農園

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HP http://higashino-en.fem.jp

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