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ひとつき遅れの飛騨のひなまつり

日下部民藝館の雛人形

日下部民藝館の雛人形

厳しく長い冬が続く飛騨では、ひと月後れの旧暦四月三日がひなまつり。
「ひなさま 見せとくれ おぞても(悪くても)ほめるに」 昔、子供たちが節をつけてはやしながら、家々のお雛様を見せてもらい、お菓子をもらうというハロウィンのような習わしがあった飛騨地方。遅い春の訪れを楽しむ行事の一つでもありました。
武士が少なく町人文化が中心であった飛騨高山には「享保雛」などをはじめとする古いひな人形や、農村部で作られた土雛など多くのひな人形が残され、多くのひな人形ファンが訪れます。
三月1日より高山市全域でひな祭りを祝う「飛騨高山雛(ひな)まつり」が開かれ、四月三日まで、市内の宿泊施設や飲食店など八十カ所でひな人形が楽しめるのも人気の一つ。
今日は飛騨高山でも一番の豪商、日下部家に残るお雛様をたずねてみました。

明治期の町家として初めて国の重要指定文化財に指定された日下部家。

明治期の町家として初めて国の重要指定文化財に指定された日下部家。

かつて万葉集にも詠われた飛騨の匠の時代より、飛騨は山深い土地ながら京の雅な文化と、江戸時代には徳川幕府の天領として力強い江戸様式が伝わり、独自の文化を花開かせました。
日下部家は、飛騨高山の祭り屋台や町並を作った立役者ともいえる「旦那衆」と呼ばれる旧家で、天領時代幕府(代官所)の御用商人として、後に両替(メインバンクの役割)を営み北陸や九州の大名にも貸し付けを行ったという豪商です。明治の大火で焼失した当時の邸宅を明治12年、当時の名工、川尻治助が江戸時代の町家様式そのままに、豪放な建築で完成させたのが国の重要文化財である「日下部民藝館」です。三階の高さまである吹き抜けで開放感溢れる豪放な梁と繊細な出格子、雪国らしい低い軒の力強い構成は、飛騨の匠の技術の粋を集めた建築物として知られています。

左:かつてロックフェラーが購入を申し入れ断ったという記述も残る、飛騨の匠の代表的な建築様式。中央、右:豪放な梁と束が男性的ともいわれる3階ほどもある吹き抜けが圧巻。

左:かつてロックフェラーが購入を申し入れ断ったという記述も残る、飛騨の匠の代表的な建築様式。
中央、右:豪放な梁と束が男性的ともいわれる3階ほどもある吹き抜けが圧巻。

左:大きなひな壇には江戸時代から様々な年代の雛人形が一緒に飾られます。右:見事な檜の御殿造り。

左:大きなひな壇には江戸時代から様々な年代の雛人形が一緒に飾られます。
右:見事な檜の御殿造り。

日下部家のお雛様は代々の当主のもとへ嫁入り道具として持参されたもので、江戸時代、文化、文政の時代のものが中心になっています。
間口いっぱいのひな壇に、御殿飾りのお雛様と時代のことなる人形たちが一緒に飾られるのが、こちらのならわしで、子供の玩具や座敷からくりなどの人形たちも並べられるのが楽しいところ。
大きな檜皮拭きの御殿の左手には雅楽奏者、五人囃子に、その次の壇には京都の葵祭の御巡幸、闘鶏楽やけまりといった王朝風のものや、相撲をとるもの、歌舞伎のひと幕といった様々な人形は、一つ一つ見ていくのも興味深いものです

上:京都葵祭の御巡幸 左:宮中遊びのひとつ 蹴鞠 右:闘鶏楽

上:京都葵祭の御巡幸
左:宮中遊びのひとつ 蹴鞠
右:闘鶏楽

左 :歌舞伎の一番 中央:相撲雛 右 :座敷からくり

左 :歌舞伎の一番
中央:相撲雛
右 :座敷からくり

「毎年二月二十七日におひなさまを出し一日で飾り付けをします。箱書きをみると年代や人形の形、大きさも異なりますが、代々継がれてきたものですね。」と館長で十三代当主の日下部勝さん。
当時の風習や流行が読み取られるのも、旧家のお雛様ならでは。もうひとつのひな壇には、明治天皇の即位を記念して日下部家の先祖が作らせた「明治雛」が展示されています。
「こちらは軍人雛で、官女以外はすべて軍人の立ち雛なのですが、全国的にもとても珍しいと言われています。」と日下部館長。近衛兵たちのなかで馬に乗っているのは乃木将軍だと言われます。今年は皇太子さまが即位される年、こうした時代の節目を、明治の人たちも暮らしの中でともに慶び祝ったのが伺えます。

左:明治天皇の即位を記念して日下部家が造らせた明治雛。右:めずらしい軍人雛の中心には、馬に乗った乃木将軍。

左:明治天皇の即位を記念して日下部家が造らせた明治雛。
右:めずらしい軍人雛の中心には、馬に乗った乃木将軍。

ところで、飛騨高山でひな人形を見るとネギに似た「あさつき」が根をつけたまま、飾られているのに驚かれる方もいらっしゃるはず。
これは雪の残る飛騨で一番早い緑のものであるとともに、お雛様のお箸になるといわれているのだとか。
季節の節目に、無病息災、豊作、 子孫繁栄などを願い、お供え物をしたり、邪気を祓う意味のあった節句。こちらもひと月遅れの五月一日から六月五日は端午の節句となり、五月人形が飾られ、吹き抜けの梁には和紙でつくられたこいのぼりがあげられます。
建築様式だけでなく、民藝館の名の通り、花嫁道具や飛騨の匠からなる根付、家具や古陶磁など、収蔵する工芸品500点が展示され、暮らしの中で育まれ、磨かれてきた美意識や慣習に触れられるのも魅力です。
ひと月遅れの節句とともにやってくる飛騨の遅い春。そんな季節の訪れを喜ぶ飛騨の文化にぜひ触れてみてください。

左:文庫蔵には根付や陶磁器、家具や工芸品を展示。右:飛騨の匠 谷口与鹿による彫刻。籠まですべて1つの木から彫りだされています。

左:文庫蔵には根付や陶磁器、家具や工芸品を展示。
右:飛騨の匠 谷口与鹿による彫刻。籠まですべて1つの木から彫りだされています。

2019/3/19 UP 取材協力:日下部民藝館

日下部民藝館

日下部民藝館

アクセス 岐阜県高山市大新町1-52
営業期間 10:00~16:00
休館日
毎週火曜日を休館(祝日の場合は翌日)
TEL(0577)32-0072
http://www.kusakabe-mingeikan.com/

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